数学史の断片

目次

1. ベクトルの起源
2. 三角比とラジアン、sine の起源
3. 対数の起源
4. 
5. 
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1. ベクトルの起源

 数ベクトルも矢線ベクトルもハミルトンによって、19世紀に作られたものである。
 よく「ベクトルの概念は古くからあり」などとしている本が見受けられるが、矢印が矢のイメージから、また大きさと方向を持つ量としての力や、力の分解なども現在は矢印で表現しているので当然古くからあるように感じるからであろうと思われる。しかし力の分解を矢印で表したのは、ベクトルが誕生してからであり、それまでは単に線分で表現していたのである。
 力学で使われていた考えは矢線ベクトルのようではあるが、数ベクトルの裏付けの無いものであった。ベクトルの概念は、デカルトによって幾何学が代数と結びつけられたように、ハミルトンによって力学が複素数と結びつけられる過程の中で新しい量として作られたと考えたほうが良いであろう。
 そこでベクトル誕生前夜までをたどってみると。

複素数の流れ力学の流れ
アリストテレス派平行四辺形の方法により運動を考える。
ヨルダヌス運動を互いに垂直な方向に分解する。
カルダノ3次方程式の解法途中で\(\sqrt{-1}\) を使用
ボンベリ\(\sqrt{-1}\times\sqrt{-1}=-1\) を認める。ステヴィン1586年の「静力学と流体静力学」によって、力の平行四辺形の法則を力の三角形の原理から示した。この本以降、力を線分で表す方法が広く使用されるようになった。
ジラール虚根を認める。
ウォリス1693年「虚数は正数と負数の比例中項」として考えるべきであり、したがって実数を表す直線と、虚数を表す直線とは直交しなければならないと考えた。
オイラー\(\sqrt{-1}\) を \(i\) で表す。
ウェッセル1797年複素平面を初めて表し、方向を持つ線分(矢印)によってすべての複素数を表し、演算も今日でいうベクトルと同じであった。
アルガン1806年複素数の幾何学的表示を初めて示す。
ガウス\(a+bi\) を複素数と名付け表示、演算等の理論を完成させた。

ハミルトン 1835年複素数を順序対とみなす。\(a+bi=(a, b)\) そしてこれらの
       対にたいして和と積を定義した。さらに実数の対を2次元空間
       の回転に対して行ったことを、3次元空間の回転に対しても行
       う数の組を考え、回転を行うために必要な複素数の幾何学的
         表示を考える中で、ベクトルを作ったのである。(1846年の論文)     

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2. 三角比とラジアン,sineの起源

 三角法(この言葉自体は16世紀ドイツのピティースクスが最初に使用したと言われている)は紀元前2世紀、ギリシアの天文学者ヒッパルコスに始まると言われている。アレクサンドリアのテオンは彼が「弦の表」(今の正弦表)を作り天文学に貢献したと報告している。このヒッパルコスの研究をさらに押し進めほぼ完全なものにしたのは「アルマゲスト」を書いたプトレマイオスである。

 その後千年以上プトレマイオス体系が支持されてきたが、ルネサンス期にドイツに於いて、通称レギオモンタヌスがギリシア人の弦の表のかわりにインド人の半弦の表を採用して正弦表を作成した。また正接にも力を入れ正接表も作成した。ただ正接や余接は1世紀も前にイギリスにおいて知られてはいた。

 三角法やその計算法はその後の精巧な天文器械が作られることによりさらに正確さが要求されいくつもの表が作られたが、16世紀の通称レティクス(本名ヨアヒーム)の作った表が優れていた。彼は正接表、正割表も作成した。
 レティクスの表が優れていたのは、12年間も数人の計算士を雇って正確に行ったからでもあるが、これまで円弧に基づいて考えられてきた三角法や計算法を、直角三角形だけに着目し直接角に依存する量として考えた最初の人であったからである。

 ここに現在高校で学ぶ三角比の考え方が誕生したのである。

 弧度法の単位ラジアンの起源はかなり新しい。1873年6月、ベルファスト大学においてゼイムズ・トムスンが行った試験問題に初めて登場している。しかし彼は1871年頃にこの言葉を用いていたと言われている。なお1869年にトマス・ミュアはrad,radial,radian のどれにするか決めかねていた、1874年にゼイムズ・トムソンと相談の結果radianを採用した。

バビロニア、エジプト、ギリシア、ヨーロッパの三角法インド、アラビアの三角法
バビロニア天体観測が盛ん
アーメス・パピルスピラミッドの斜面の角度を、高さに対する斜面の水平距離によってはかる問題が載っている。
ヒッパルコス弦の表を作る
プトレマイオス「アルマゲスト」この本はその後千年以上にわたり支持される。
アールヤバタ499年インド最初の天文書「アールヤバティーヤ」に半弦の表が載る。
\(\sin\) の起源インドでは半弦をardha-jivaとよんだ。ardhaは半分jivaは弦の意味だが単にjivaと省略された。アラビアに伝えられたときjivaがjibaと書かれ、母音を省略する習慣から、jbと書いていた。
ロバートjbがヨーロッパに伝えられたとき、これが同じ子音を持つjaibと混同された。アラビア語のjaibは女性の衣服での胸をはだけるの意味で、ラテン語のsinusと訳した。(1145年頃)sinusは(衣服のトーガを)たたむ、胸、入江の意味があった。ここから今日の \(\sin\) が作られたのである。
レギオモンタヌス余弦をsinus rectus complementiと呼んでいる。rectusは直角で余弦は余角の正弦と言う意味であった。
ガンター1620年余弦をcosinusと呼び、ここから \(\cos\) が作られたのである。

その後三角関数はオイラーによって確立された。

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3. 対数の起源

 航海のため星の位置を正確に知る天体観測が必要だった15,16世紀のヨーロッパ。多くの天文学者たちがデータの計算に苦労する中、デンマークのヴェーン島の天文台で観測を続けていたティコ・ブラーエはプトレマイオスの時代から改良されてきた弦の表を使い積の計算を和に変換する方法を利用していた。\(2sinAsinB=cos(A-B)-cos(A+B)\)である。この計算方法は、ヨーロッパでは16世紀初頭ヨハネス・ウェルナーが最初らしいが当時は広く知れ渡った方法であったようである。
1590年スコットランド王ジェームズ6世がデンマークへ航海したとき、嵐に会い避難停泊をしたのがヴェーン島でありブラーエの天文台の近くであった。一行がブラーエから歓迎を受けたとき、天文計算の方法が話題になり、侍医として随行していたクレーグはスコットランドに戻ったとき友人のネピアにこの方法を伝えたのではないかと言われている。
 ネピアは1594年頃からいわゆる対数にあたる簡単に計算できる方法を考え始め、算術数列(等差数列)と幾何数列(等比数列)の対応から積と和の関係を考えた。\(10^7\)(正弦表の利用を考えていため半径\(10^7\)の円による)の長さの線分上を0に向かって速度が減少していく点すなわち、初項\(10^7\),公比\(1-10^7\)の幾何数列と別の直線上を一定の速度\(10^7\)で運動する点つまり算術数列との関係を同じ時間が経過したときの点の位置を変数として対応させそれを対数 logarithm (logos(理性)とarithmos(数)の造語) と呼んだのである。
 また、16,17世紀にはヨーロッパで商業が盛んで利息の計算など複雑な計算が必要になっていた。ステヴィンによって小数が使われるようになったのは16世紀末のことでそれまでは分数計算や60進小数が利用されていた。スイスの時計技師であった。ビュルギは利子の計算を行う中で、初項\(10^8,公比1+10^{-4}\)の幾何数列を考え、\(N=10^8(1+10^{-4})^L\)として\(Nと10L\)の対応表を作った。それはネピアの発想の5,6年前のことであるが、ネピアの対数表は1614年に、ビュルギの対数表は1620年に出版されている。

三角関数表、対数表の流れ小数、指数法則の流れ
ヒッパルコス弦の表。
プトレマイオス2世紀「アルマゲスト」
レギオモンタヌス1467年「三角法全書」
シュケ1484年手稿の中で\(a^ma^n=a^{m+n},(a^m)^n=a^{mn}\)
ウェルナー1510年頃
\(2sinAsinB=cos(A-B)-cos(A+B)\)
ルドルフ1526年小数点を|で表し 393.75 は 393|75、複利表を作る
シュティーフル1544年「算術大全」の中で幾何数列と算術数列の間の対応関係について述べるシュティーフル1544年「算術大全」の中で指数という言葉と共に負の数の指数も認めた
ヴィエタ1579年「数学一覧表」 \(n\)倍角の公式
レティクス1551年「三角法正典」三角関数を直角三角形で定義、正弦表と正割表を作るステヴィン1585年「10分の1」
ネピア1614年「驚くべき対数規則の記述」対数表
ブリッグス1617年「1から1000までの数の対数」
ネピア1619年「対数計算の仕組み」死後息子による出版 
スパイデル1619年「新しい対数」常用対数表を作り、自然対数を導いている
ガンター1620年 対数尺を作る ビュルギ1620年「等差および等比数列の表」対数表
ブリッグス1624年「対数算術」
オートレッド1627年頃 計算尺を作る

   

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